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サービス・イノベーション研究委員会報告

第12回 サービスサービス・イノベーション研究委員会(平成22年8月26日)

 平成22年8月26日午後6時、東京都千代田区の日本記者クラブ大会議室において第12回サービス・イノベーション研究委員会を開催した。角忠夫委員長より開会の挨拶があり、「第2フェーズに入り、これから2、3回続けて具体的なサブジェクトについて方向付けするために討議したい」と本日からの予定を確認した。
 本日の委員会では、日産自動車の佐藤茂樹氏から「品質・生産性」、コマツの北谷泰一郎氏から「サービスの品質と生産性」、山武の福田一成氏と富士ゼロックスの武田優氏から「サービスの価格に関する論点整理」と題する報告があった。

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「第2フェーズに入り、これから方向付けをするための
討議に入りたい」と説明する角忠夫委員長(中央)。
小坂満隆副委員長(右)、橋田忠明専務理事(左)

■第12回 サービス・イノベーション研究委員会での講演概要

1.「品質・生産性」:日産自動車 佐藤氏

 これまでの発表で品質や生産性に関して調べたところ谷口正樹委員が「サービスの品質の向上と人材育成に関しての取り組み」を取り上げていて、その辺りにサービスの品質の切り口がないかと考えた。紹介された「サービス・イノベーションを通じた生産性向上に関する支援事業」の報告書(2010.4 経済産業省)の中に生産性向上に向けた具体的な取り組みがある。
 「サービスの品質をどのような切り口で評価していくか」が分かれば、その評価に対応した手法を改善していく取り組みが可能ではないかと考え、軸が何かを探そうと試みた。


顧客とのコンタクトの度合いによってサービスの形態が変わる

 リチャード・チェイスは「サービスに関する必要な顧客とのコンタクトの度合いによってサービスの形態が変わる」と指摘している。顧客と接するホテル業や、物に関する品質がサービスに直接関わる製造業などに分けることが可能で、サービスの品質を見る時の要素の区分けとして考えられるのではないか。
 サービスの品質は、顧客とのやり取りをしながらサービスは起こるものなので、人とからむところで確率性、生産性が高い。製造業の場合には、顧客と直接関わらないところ、例えばシステム管理、製品管理等、サービスに関わる機器の品質や性能を挙げられる。
 これは大きく「人的サービス要素」と「物的サービス要素」とに分けられ、人的なサービスについては人材育成教育やマニュアル整備などが、物的なサービスについては、販売管理、顧客管理、製品状態管理や不具合対応管理といったことをよりシステマチックにやっていくことが、生産性の向上につながると考える。


日産におけるサービス・イノベーション

 日産の事例を取り上げてみる。日産のアフターマーケットで、スカイラインGTRのお客様向けだけのサービスであるが、特別に「ハイパフォーマンスセンター」を設置し、車おたく向けに、今まで以上に高水準のサービスを特別なお客様に確立していこうと、販売に併せて取り組んできている。
 人的サービス改善としては、そこに配置されるテクニカルスタッフに対して、特別なレーシングに関するメカニックのノウハウを持つ先生が、全国のディーラーのサービスマンを集めて教育を行ったり、認定ボディーショップと呼ばれるような、高い精度で修復を行う特別教育を受けた作業者が常駐するところを設置したりしている。
 物的なサービス改善の取り組みとして専用の機器(故障診断機器)を用意して、車好きのオーナーに対して要望に応えられるように備えている。例えば、レースに参加する時、簡単なチューニングとして、レーシングカーのリミッターをはずす等のサービスをしている。


電気自動車では、新たなサービス機能をあらかじめ装備

 製品のユーザー向けサービスとして、電気自動車を利用して新しい市場にトライしている。電気自動車は従来の自動車と違って、ユーザごとに色々な使われ方がされるので、より簡単に煩わしくなく使ってもらうためにどうするかなど、様々なサービスを考えている。
 従来のナビゲーションシステムは客側の通信端末で情報を集めていたのに対して、電気自動車の中に通信モジュールを常備し、センターと24時間常時接続して、車の位置情報、色々な情報をサーバーから取り込めるようになって、特に充電に関する不具合を持ち込まなくてもサービスができるような情報システムを開発している。
 例えば、客のいるところから、アクセス可能な充電ステーションを示したり、運転を始める前に車のエアコンを自宅の電力で温度を最適にしておいたり、安く充電できるようにタイマーを設置しておくなどに取り組んでいる。製品に絡むサービス機能を盛り込んでいる。

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「サービス品質は、人的サービス要素と物的サービス要素とに
分けられる」と説明する佐藤氏(右)。
「顧客満足度調査とインデックスを設けてサービス品質を
評価している」と話す北谷氏(左)。

2.「サービスの品質と生産性」:コマツ 北谷氏

 「品質と生産性」のコマツの考えと、「品質をいかに情報として採るか」の2つある。  1つは一般的だが顧客満足度調査であり、顧客を訪問して直接意見を聞いている。  もう一つは自己チェックで、顧客に直接販売・サービスをしている代理店のパフォーマンスにインデックスを設け、代理店が顧客満足度を得るためのインデックスがどうかをチェックしている。  この2つが基本で両方やっている理由は、顧客満足度だけではばらつきが大きく、地域、国ごとに相手が違うため、相手との比較でばらつく。そこでインデックスが必要である。


サービスの品質をインデックスで評価する

 例えば「修理」でみると、以下のようなインデックスがあり、代理店に月1回提出させている。
 機械のアベラビリティ、使える状態にある比率、修理の即応率、修理のリードタイム、修理後再発していないかの再修理率などの一連の項目を設けて評価している。
 標準の保証期間内に訪問しているかが守られているか、標準保証期間を越えた場合でも、訪問してマシンに触っているかなどを管理している。お客様のクレームで修理した場合の処理のリードタイム、品質情報の発行リードタイムなど、リコール発生時の対応時間、部品の翌朝供給率等を、我々がみて代理店が悪ければ改善指導をすることにしている。
 インデックスを毎月提出させている。
 顧客満足度調査は、製品の性能値、部品の価格、部品のリードタイムはどうか、部品のアベラビリティはどうかの5点を評価している。


生産性が良いとは、コストをかけずにサービスが提供できること

 生産性とは、効率の良いことだと考えている。「効率の良い」とはコストをかけずに高品質のサービスが提供できることではないかと考えている。サービスを提供した結果として、本体や備品がリピートで売れるということも、効率の良いサービスではないかと考える。これらは概念的な話である。
 生産性を上げるために我々はKOMTRAXを活用している。稼働時間や機械の位置、故障の内容(エラーコード)を見ることができるので、これを活用してピンポイントである時間がきたので定期点検や部品の交換、故障内容を事前に把握し、原因となっている部品を準備して早く修理できるようにする。
早く治せば、トータルでは人間の数を減らす。メカニックの人が減り、いわゆる効率の良いサービスになると考えている。  生産性を追究しながらサービス品質も向上させるよう両立しなければならない。KOMTRAXで集められたデータが、品質インデックスの項目を良くしているというところもあると考えている。
 ひとつの例としてあげると、インデックスの中では顧客が一番満足をするのは「使いたい時にいつでも使える、アベラビリティを極限まであげる」ことであって、これは「故障しない」「故障してもすぐに直す」ということになる。
 「故障しない」ことについては、品質もあるがKOMTRAXで定期訪問して予防保全で極力故障を未然に防ぐということで対応している。
 「故障してもすぐに直す」には、訪問・故障診断・部品手配・修理で対応するが、そこでどういった自社のツール・資産が活用されているかというと、訪問ではインデックスにある「修理即応率」、診断・手配・修理が「修理リードタイム」、特に部品手配のところが「翌朝供給率」があたり、このうち訪問は故障診断、部品手配はITツールがかなりのウェートを占め、故障診断や修理にでは人材と技量が大きく関与することになる。
 これらに対応する改善は、業務フローシステムを改善し、ツールの機能アップを図り人材育成をしていくことになる。これらを正しく評価するためにIT化をしたい。


サービスの評価は、顧客と企業側では視点が異なる

 品質と生産性を一般的に見ると、提供したサービスの評価は、顧客視点で見ると「品質」という意味合いになり、企業側の視点では「生産性」になるのではないかと考えている。
 これらを評価して、それの改善が回る。
 評価というと「顧客満足度」と「顧客にとってなくてはならない度合い」と「顧客の生産量MaxコストMin」で良くなり。企業側の視点で見れば、低コストで高品質のサービスができるかということを「人材コスト」「設備(投資)システム」「効率(工数)」を評価して、最適化できるよう改善すれば効率が良くなっていく。この時、評価するための良い方法と、明快な改善方法があってうまく回る。それらがうまく回れば、生産性と品質の両方が向上していくことになると考える。

3.「サービスの価格に関する論点整理」:山武 福田氏、富士ゼロックス 武田氏

 「サービスの価格」は、プライスだけでなく、フィーであったり、入場料であったり、呼び方が変わると中身が変わってくる。何のサービスについて語っているのかを限定しなければいけない。
 有形財と違うところとして、「供給品質が変わる」「要求品質が変わる」「受け入れ側が変わる」等の変動性が高いということから、価格も交渉によって設定されることが多い。
 また、物であれば価格の需要変動性は、データを取れば決まってくるが、サービスでは価格設定が難しい。サービスの場合、入札や見積などの世界もあってどのように整理するかの問題がある。
 一般論では、ある程度の設備を投資して人材を確保して提供するので固定費が高くなるが、儲けるためには固定費をどのようにしていくかを生産性から検討できないか考える必要がある。
 例えば機器のメンテナンスというサービスでは、「メンテを契約しないと直さない」とすれば、いくらでも取れてしまう世界もある。省エネサービスのように「やってもやらなくても良い」という場合は、相当値段を下げをしてもお客が無いということもあり、サービスによっては設定が難しい。


サービス価値の定量化は難しい

 製造業のサービスの場合、物との関係、交差弾力性というが、製品を買ってもらう代わりにサービスをタダにするケースもあれば、逆に製品をタダにする代わりにサービスを稼ぐというものもあり、モノと  サービスの価格の関係もあるので、重要なポイントである。
 以前に紹介したエスコ事業などの取り組みも計測器を作っている会社ではあるが、そこを切り離したサービスをやっており、サービスの価値を定量化しなければならない。
 お客様にとってそのサービスがいくらのものだと納得できれば、それが価格として設定されるが、そのサービスの価値を定量化は難しい。サービスの価格をどのように定量化するかをいくつかのケースでやってみようと考える。
 例えば、エスコでのエネルギーコストを下げる時、コピー機での紙を少なくするソリューションを提供する時など、エネルギーを削減するとともにCO2が下がっていて、そこに値段が付けばサービス価値が付くというようなケーススタディができるかもしれない。
 サービス・イノベーションの価格設定という発想からすれば、今やっている価格決定の決まり方を分析することが必要だが「価格という切り口からどのようなイノベーションが起こせるか」を検討したら良い。
(1)有形財で一般に用いられた価格設定を応用した新しい価格戦略は作れないか
(2)サービスであれば、製造業でないホテルなどのマーケティングミックスを使えるのではないか
(3)価値基準型、これに関しては事例調査が良いのではないか
(4)見積もり、入札の世界では、RFPやRFQなど、発注者側がリクエストを作ってそれに対応するやり方があり、PPP(Public Private Partnership:官民協力)の手法の中では対話型などで提案を公募し、提案に対する質問を投げかけ、やりとりをしながら一番良いものを決めて、それに対して価格を決めるなどの方法もある

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「 価格という切り口からどのようなイノベーションが起こせるか−を検討したら良い」と説明する福田氏。


サービスの価格決定方法

一般的な価格決定方法は、「コスト基準型」といったサービスを提供するのにいくらかかるのかということから、コストを積み上げる方法がある。
 もうひとつは目標利益を決めておいて価格を決めるといった、物と同じ発想方法がある。
 ただし、サービス業におけるコスト構造の場合、固定費に対して変動費が小さく、供給能力に限界がある。サービスのコストをどう考えるのか。1件あたりのコストに利益を乗せて価格を設定するコストプラス型の場合でも、その価格がお客にとって価値があるかとは関係がない。

 これでサービスの価格も決められるか?
(1)損益分岐点型価格設定(目標利益を決めて販売数量、単価を設定)
(2)低価格設定時のコスト・利益構造(単価を下げて販売数量を増やし利益を達成)
  コモディティ化した一般的なサービスであれば適用されるのではないか
(3)高価格設定時のコスト・利益構造(高い単価設定で契約数はすくなくとも利益を確保)
  最初の新しいサービスや特化したサービスに適用されるのではないか
(4)固定費の低いコスト構造(請負業務の外部委託・設備アウトソーシング)
  アルバイトや協力会社、外部のデータセンターの利用などで固定費を下げるなど

 これをやると品質の問題が大きい。
 ホテルの客室を埋めてしまうとか、飛行機の席を埋めてしまうなど、サービスの人員をフルに活用するために、ワークシェアをする方法もある。


定期点検サービスなどの価格

 定期点検サービスなどの価格は、他社との関係や実勢価格で決まっていて、コスト削減に走ることになる。その時、抱き合わせや製品の価格を下げサービスで利益を確保しようとするなど交差弾力性を戦略として使うなど考慮する必要がある。
 メンテナンスなどをやるとお客側の色々な情報が取れて、これを基に色々なソリューションを提供しようとすると、付加価値型は需要の交差弾力性が高く、ある程度の値段でも買ってもらえないことがある。
 サービスの場合、必要なものにはお金を出すが、オプション的なものではお金を出さないということがある。中身が魅力的なものでできるかが価格を決める時のポイントになる。サービスの内容によっては、特定の顧客にフィットしたものであれば上澄み吸収価格も可能になる。
 そのほか、プリンターとインクの関係のように買ってしまったら、それを選ばざるを得ない設定もある。これはサードパーティなどの出現で価格戦略が難しい。
 価値基準型価格設定は、顧客にとってのサービスの価値を定量化して設定する方法で、メンテ契約の場合、事業機会を逸することに対して、保険料的な価格を設定したり、人件費の削減やエネルギーコストの削減が期待できるなどの便益の定量化で価格を設定したりする。
例えばCO2削減量のようにこれまで価格化できなかった価値をどうするかについては、その試みを事例で見ることができる。

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「サービスの場合、中身が魅力的なものでできるかが価格を決める時のポイントになる 」と説明する武田氏(右)。 (左)は福田氏。


サービスの価格設定

PPPのように従来の入札に対して、公共サービス型、建物を造って運営して機能するところまでを総合的に評価して価格を設定する施設はすでにあった。入札の価格形成が何かの参考になる。
これは、千葉県給食センターPFIの事例を紹介する。給食センターの建設だけでなく、食育を目的にして運営することを含めて発注するケースである。通常の価格と設計に加え、作る時の色々な事項、維持管理、運営、食育などが盛り込まれ、それに価格が求められている。
従来安ければ通るといったものが、それぞれに点がつけられ、評価される。この採点部分が価格決定に影響するので、ある意味サービスの価格設定と言えるのではないか。その結果、価格が2番目でもその他の部分が評価されてトップになっているところがあり、この部分がサービスに対する評価と言えるのではないか。ただし、採点基準は発注者が決めていることであり、それに合わせれば評価が高くなる。その場合、本当の価値になるかは考えなければならない。最近では、この採点の中身まで提案を受けるというケースもあり、提案の経緯を公開しながら進めるケースもある。


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