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知的財産委員会報告

第14回 知的財産委員会報告

 平成23年10月3日、日本記者クラブにて、第14回の知的財産委員会(委員長:荒井寿光東京中小企業投資育成社長)を開催した。秋元浩委員(知的財産ネットワーク(IPSN)代表取締役)から「知財立国の実行をあげるには −IPSN/LSIPが目指すところ−」のテーマで説明がされ、意見交換を行った。

■第14回 知的財産委員会での報告

(1)日本のライフサイエンス分野における研究開発と知財活用

 新薬の研究開発期間は15年以上かかる。3万の検体スクリーニングをして、1つである。1社当たりの研究開発費は、大手10社の平均で対売上高の19%かかっている。製品に対する特許は少数で、強力に守らなくてはならない。
 武田では、1993年から知財戦略を経営戦略とどのように一体化させるのかに取り組んできた。クローバルな展開をどうするのか、コストの原理どうするのかに取り組み、知的財産の有効活用が図られてきた。

(2)研究成果の産業化に向けた現状

 次にライフサイエンス分野における研究成果について説明した。
 同じ研究費を使って、日本は、欧米に比べて3倍の研究成果が出ている。問題はアカデミアにあると言える。日本のT大学の引用回数から推測される科学的・知財的貢献度を評価すると、国際出願件数や論文数では見劣りをしないが、論文引用回数では見劣りをする。なぜ、製薬企業は良いのに、アカデミアの状況はこのようになっているのかの疑問がある。
 例えば、大学等では受精卵や胎児で留まってしまっている段階で、論文発表したり、出願したりしている。企業の場合は、きちんとした胎児になるところ、シーズになるところまでインキュベーションして、外側を守ってグローバルな知財戦略に取り組んでいる。経営の方も、出口戦略を考えて経営戦略、経営方針を持っている。大学の研究は良い事をやっている。しかし、産業に結びつくところでは成果が出ていない。
 大学の研究成果は産業界で役に立つのかについて、経営者層と研究者層の両方に聞いた。経営者層は、大学での研究成果が役立たないとする意見が強い。産業として使えない、あるいは、特許にしても穴だらけである。しかし、研究者は、大学の研究成果は素晴らしいと言う。
 なぜかというと、大学の研究成果に受精卵や胎児があるという。先生に学会などで会って自分達でブラッシュアップすれば、自分達の目として使えるという。欧米の大手企業は、外部の研究成果を事業化することが多いが、国内の大手製薬企業は、3分の1位しかなく、欧米と比較して少ない。大学には、素晴らしいコンセプトがあるにも関わらず、産業につなぐだけのバリューアップがされない。それは知財でも同じである。

(3)知財の将来に向けて

 IPSNがどういうところを向いているか、1年半の大学とのお付き合いをまとめると同時に製薬企業とのヒヤリングを通して、どういうことを考えているかの報告があった。
 IPSNは、知財サポート、知財人財の育成と確保、ライフサイエンス知財ファンド、アジアネットワーク構築の5つの主要な事業に取り組んでいる。
 大学・研究機関の知財・研究情報の取り組みとして、約13,000件の情報から約700件に1次選択し、それを技術が新しいか、知財がグローバルな感覚で取れているか、あるいは取れる可能性がまだあるか、産業化ができているかで、ふるいにかけ、最終的に157件に絞り込んだ。さらに企業と事業化できるのは、3件程度である。
 IPSNが注力をしているのは、がん、アルツハイマー、ES幹細胞などの再生医療、薬を診断するバイオマーカーである。創薬情報の研究ステージとして、「リード化合物の探索段階」については、基礎的なものを欲しがっている。特に欧米の企業は、新しいものにアクセスしている。

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秋元委員(中央)、「同じ研究費を使って、日本は、欧米に比べて3倍の研究成果が出ている。
問題はアカデミアにあると言える 」と報告する。


 情報提供活動の今後の方針、大学に無料でやっている知財コンサルティング、マッチング支援について説明があった。マッチング支援については、年間25件実績がある。大学には、ライセンス契約ができる人がいないという問題がある。大学には産業界での価値が、分からない。IPSNは、大学の側に立って交渉をして、実績を挙げている。
 知財部のアウトソースに取り組んでいる。ベンチャー企業等の知財部門を持たない企業の知財部業務を代行している。
 知財人材の育成と確保については、研究シーズを識別できる目利きの力、事業化を見据えた知財戦略の立案とそれに見合った特許出願できるか、医薬・ライフサイエンス分野に特化した知識・技術を持っているか、事業を考えてグローバル戦略を立てられるかどうか、大学と企業をコーディネート出来るかどうかなどのコミュニケーション能力を持った人材が、知財として、日本として必要になる。
 大手6社の次の準大手を育成することを考えたが、企業からでなく2つの国立大学から人を出してきた。技術として新しいかどうか、知財として手当て出来ているか、あるいは手当できる可能性を持っているか、それをした上で、産業に出せるかどうかを、IPSNの熟練者と同じような結果が出るかを3カ月間トライアルすることとした。
 もう1つの大学からの研修生は、1年間受け入れることとした。2人の研修生は国立大学なので、実費以外は取らずに取り組むこととした。

■第14回 知的財産委員会での意見交換

 秋元氏の講演の後、各委員との意見交換があり、整理すると以下の通りである。

(1)研究者自身がマーケットを理解すべきというより、研究者は本来研究に専念すべきであると考える。大学もアーリーの段階から、目利きが出来る人が必要で、研究、知財、事業化の3点が評価できれば、効率は向上する。

(2)研究者がテーマを自由に決めて研究に取り組んでも、米国で既に取り組んでいるものをやっていることがある。それは、論文数や特許件数にこだわるからで、陽の当たっているところの研究をやれば、研究費をもらえるし、論文が出るからであると思う。しかし、効率を考えると、そのやり方には疑問がある。

(3)人材育成で、中東でエミレーツ航空とカタール航空が世界で最高の航空会社になっている。それはサービスが行き届いているからである。インフラもお金があるから凄い設備である。色々な国々の良い人を採用し、搭乗員も10カ国の人が乗っている。
 人材は、日本だけで考える時代ではない。そのためには、5年間位かけて大学を教育する必要がある。大学の先生の3倍から5倍の給与を出してやる。韓国、シンガポールではそれをやっている。サッカーなどでは、外国の監督を招いてやっているのに、なぜ知財では、それが出来ないのか疑問である。

(4)日本の知財人材育成の内容は、知財制度や手続き、理念を知ることにある。知財を使う力、契約でどう対応するかについては遅れている。教育をシフトしなければならない。
 それはピストルを持っていても、実戦でピストルを撃てないのと同じである。

(5)研究を事業に結びつける話は、分野ごとの違いが大きいように思う。IT系の場合は、研究者が研究成果を出しても、ビジネスモデルで生態系を作られてしまうと、いかに良い技術であって使いようが無い。創薬の場合は、良いものがでれば使えるというビジネスモデルである。

(6)大学での創薬の研究は、科学的な発見が多い。IT系の場合は作ったり、使ったりが多い。科学的な発見を薬にするには、10年とか、15年かかるから、大学の先生には事業化まで見通せない。

(7)商品アーキテクチャーの作り方を、誰がデザインをするのか。診断薬と治療薬のカップリングで価値形成をする。日本では、そこが分離しているので、価値形成のデザインが出来ないのではないか。
 商品アーキテクチャーのデザイナーとか、次世代の医療価値プロデューサーが必要となる。この人材をどう育成するかが、課題である。


● 次世代のインターネット、V6の技術開発で進んでいた日本が一番遅れている

 ケニアで開催されたインターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)に参加してきた加藤幹之委員が、世界の最新動向を説明した。
 クラウド・コンピューティングが世界中に広まっていて、今まで考えていた知財の世界が大きく変わっている。IGFへの日本の代表団は少ない中で、中国の存在が大きい。携帯で全部がつながるようになると、途上国のほうが新しいことに飛びつくことができる。
 次世代のインターネットで日本は重いものを引きずっていて、インターネットはV4からV6に移らなくてならないが、V6の技術開発では進んでいた日本が、実務上では一番遅れている。総務省などはV6への移行はお金が掛かるという理由で躊躇している間に、世界から取り残されてしまった。
 知財でも日本は遅れていて、新しいインターネット時代における法律や制度がどうあるべきか。日本は1歩どころか5歩ほど、世界から遅れている。もう日本は世界に追いつけないとも言える。
 今回のIGFには、2千人が登録しているが、日本からの参加者は10人程度で、日本の経済規模からすると極端に少ない。


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