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知的財産委員会報告

第15回 知的財産委員会報告

 平成23年11月28日、日本記者クラブにて、第15回の知的財産委員会(委員長:荒井寿光東京中小企業投資育成且ミ長)を開催した。インテレクチュアル・ベンチャーズの加藤幹之委員から、「2つのIP――オープン戦略とクローズ戦略」とのテーマで説明がされ、意見交換を行った。

■第15回 知的財産委員会での報告

「2つのIP−−オープン戦略とクローズ戦略」講演

 加藤幹之氏から講演に先立ち、アフリカのナイロビで行われたインターネットの国際会議の様子などの紹介があった。ナイロビにいて緊急に会議をしなければならないことがあり、スカイプを使用し、アフリカにいても、1分間2円でテレビ会議ができたという。
 続いて講演に入った。

(1)最近の知財の話題例

 この部屋でIPというとIntellectual Property(知的財産)であるが、この部屋を出るとIPは、Internet Protocolである。インターネットに関わる人は、著作権や特許とかの知的財産を嫌う。自由にコンテンツを作って、情報を交換できることが自由である。著作権や特許を、専門に扱っている人間は軽蔑される。
 今年になって、ノーテルの特許6,000件が45億ドル。もともとグーグルが、9億ドルで買うと言い、世界はびっくりした。どうなったかと思っているうちに、アップル、マイクロソフト、EMC, エリクソン、ソニーなどの6社がコンソーシアムを作って45億ドルで買収した。グーグルが入札競争で負けた。
 今度はグーグルが、モートローラモバイルを125億ドルで買収。関連特許は17,000件、グーグルは、クラウドコンピューティングという新しい世界に出て行く。何十万台というクラウドのデータセンターを作る。世界中のネットワークにつないでサービスの拠点にする。グーグルがモートローラの携帯電話のビジネスをするわけではなく、通信関係の技術を欲しかったと思われる。

(2)知財戦略が不可欠

 世の中が知識社会になって、企業の財産の対象として技術・知財が重要になる。もう一つ、オープン・イノベーションを実現するということは、知財戦略をやること。
 企業にとって重要なソリューション技術、エンジニアリングは昔からあったが、単にハード、ソフトを売るのではなくて、どう課題を解決するかというソリューションビジネスも、大企業では主流になって、著作権とか知的財産権が重要になっている。
 その知的財産戦略が、事業戦略や、技術戦略と一体化することが重要になる。技術の標準化戦略も重要な要素である。

(3)なぜ特許を取るのか

 基本的には基本特許、皆が使って、誰もが避けて通れない特許が基本である。海外を含めてどこで特許取るかが重要で、取ったら終わりではなく、活用できないと意味がない。
 自分の特許の権利を主張するだけでなく、人の特許の権利を侵害しない作戦を色々考える。侵害しそうなら、早いうちからライセンス交渉をするとか、作戦を考える。責められたら攻め返す武器を内緒で持って置く。常に戦略を考える。
 特許で重要なのは、「特許マップ」とか、「技術データベース」とかのデータベースを活用して、どういう製品を作るか、どういう事業をするかの指標として使うのも重要である。

(4)特許の活用例

 事業の修了や方針変更で不要となった特許は、譲渡や売却する。IV社に入って、特許を活用する仕事をしている。思った以上に、各社売りに来ている。
 IV社は、特許の売買に関して、最も経験のある会社である。色々な会社が持っている技術や、特許がどのようなものがあるか。将来このような技術を、このような塊で持つと技術の価値が上がるという分析をしている。
 「武田製薬が興味がある薬に関する技術」と言われてもIV社は買わない。それは技術として薬品に仕立てることが難しい。製薬会社の経験がある会社でないと、技術をもっても使えない。IV社は、自分自身がその技術を固まりとして持つことによって価値を見出せるという場合にしか買わない。「こういう薬品会社に行かれたらどうでしょうか」と話をする。
 IV社は技術を買って製品化することを直接の事業目標にしていない。技術を固まりで持って「技術を必要な方に使ってもらう」「ライセンスする」ことを目的としている。
 特許の活用に戻ると、譲渡とか売却も、本来の特許を取った主旨ではないと思う。例えば、日本の企業が、これだけ特許を持っていても、特許料収入が無い。活用するとは、訴訟を含めて活用することだと思う。日本の企業も泣き寝入りしないで、正当なる権利を主張すべきである。特に、日本の大学は訴訟を考えていない。

<意見交換>

 加藤氏が「どうして大学は、訴訟をしてでも自分の技術を主張しないのか」と各委員に意見を求めた。

三木氏:「訴訟をするという文化を日本の大学は持っていない」。

秋元氏:「自分のところの技術が、産業界でどれほど使えるかの評価をできる人が大学にはいない」
「ライセンス交渉で、収入が低いということも、ライセンス交渉のプロがいれば収入は10倍になる」。

石田副委員長:「大学に事業がないので、大学に特許訴訟の文化が育たなかった」。

三木氏:「もともと事業戦略を考えていない。研究開発の戦略は、本来は事業戦略を充足しているはずである。研究開発は研究開発としての戦略で、その中の派生物としての知財という見方だ」。

加藤氏:「日本の大学は、素晴しい研究をし、発明をして、特許を取って、それで米国企業や中国の企業にお金を払えと言って訴訟まで起こして大きなお金を取ったと言ったら、大喝采だと思う。
それでこそ技術者が素晴しい技術を作ったとか、あの大学は素晴しい技術を持っているというイメージが生まれる」。

秋元氏:「その時に、訴訟を起こして、金を取ることは可能だが、訴訟を起こす時の知財そのものの道具が、竹槍に対して、向こうは機関銃かもしれないので使えない」。

加藤氏:「向こうが機関銃ということは無いのではないか。大学であるので、企業と違って返り血をあびるリスクは少ない」。

秋元氏:「例えば、日本の大学がアメリカの企業を訴えると言ったら、アメリカの企業は機関銃を持っているが、日本の大学の特許は竹槍だ。特許を取る時に知財そのものが竹槍」。

三木氏:「山口大学のTLOの場合、知財は基本的に有償譲渡で出したい。ライセンシングで自分たちが権利を持っている状態を少なくしたいと考えていた。訴訟を考えた時、戦えない大学が持っておくことが良いのだろうかという考えだ」。

5)2つのIP

 新しい知財戦略を考える時に、まず軸にするのが2つのIPである。インターネットの世界を考える。アフリカの道路も整備されていないところでも、インターネットを使って情報のやり取りが出来ている。
 アフリカのケニア、観光業ビジネスの機会は多いはずだが、インターネットにアクセスできなかったからビジネスにできなかった。しかし、モバイル・インターネットで、可能となってきた。
 この状況で、知財をどう考えるか。2つのIPが同じになってきている。

(6)オープンとクローズド

 オープンで考えると、自分の権利を主張せずに使わせる。独占権、排他的権利を主張するクローズドと対立。インターネット・ガバナンスフォーラムは、国連の会議である。
 90年代から、インターネットの議論をしている。その頃は、オープンの世界は盛んではなかった。この数年変わった。例えばグーグルは、無料で何でも自由に使わせるが、彼らの哲学で、社会的な使命である。グーグルブックは、人が1ページずつ、見ながらPDF化している。儲けるというビジネスプランで無くやっている。ツイッターもそうである。利用料を取らない。オピニオンリーダーがツイッターに少しコメントすることで、ある商品が爆発的に売れたりする。フェイスブックもそうである。ツールを上手く使うことでビジネスが進む。企業もネットを使ったほうが、コストが安い。ネットの情報は著作権で保護されるから、コピーしてはいけない、真似をしてはいけないというと不自由になる。多くの人が、著作権とか財産権は無い方が良いと考えている。
 アップルは、知財の塊で食っている。一方、グーグルは全部自由。アップルは自分の権利で、自分の閉じた世界を作る。アップルはディズニーランドを自分で作る。グーグルは世界地図を自由に使わせる。それぐらい思想が違う。ディズニーランドは夢の世界、頭の世界、すべてが決まった取り込んだ世界、著作権で守られた世界。一方、グーグルは皆、カオスでも良いから誰でもアクセスができる自由さがある。アップルは自由にしないといったが、クラウドを持っている。自分の中では、互換性を取って自由に使える。

(7)国連でのインターネット管理問題議論

 ICANは、1998年の10月にできた。インターネットは国連のような組織で管理しなければならない。
 アドレスを決めるサーバーは、世界で13個。米国に10個、ヨーロッパに2個、日本に1個ある。アメリカに10個あり、何か起きると止めることができるのは問題だと中国などが主張している。
 インターネットの自由とか、インターネット上のセキュリティー等について、国連の場で議論しようということで始まった。中国が、心配なのは、インターネットに情報が何でも出てしまう。中国の情報が海外に出てしまうことだ。民族の独立もできる。震災とか災害対策にどのように使うかの議論が起きた。ダイナミック・コアリッションという表現の自由を守るという意見形成のグループができている。
 このようにビジネスで重要になっているにも関わらず、日本人の参加が少ない。インターネットという、クラウド時代に一番重要な標準化の議論に、日本の人達が参加していないのは問題である。

(8)コモンズ(共同社会)の形成

 コモンズが重要になっている。対立に見える2つをバランスすることが、ビジネスである。
 会社によってこの部分をクローズにして、自分が独占して、自分の製品しか買わないという世界で儲けながら、後はオープンにして皆に使わせたい。標準化と差別化についても、オープンとクローズの議論だと思う。なぜ、日本でビジネスが生まれないかを議論したいと思う。
 オープン・イノベーションで、今、日本で一番必要だと思う事は、自分の研究開発そのものではなくて、そのものをどうやって、上手くビジネスに結びつける仕組みの部分。それをイノベーション・エコシステムと言っていて、専門家がネットワークを作り、協働して総合的なサービスを経営者や技術者に提供できる仕組みである。

■第15回 知的財産委員会での意見交換

 加藤氏の講演の後、各委員との意見交換があり、整理すると以下の通りである。

(

(1)研究者自身がマーケットを理解すべきというより、研究者は本来研究に専念すべきであると考える。大学もアーリーの段階から、目利きが出来る人が必要で、研究、知財、事業化の3点が評価できれば、効率は向上する。

(2)研究者がテーマを自由に決めて研究に取り組んでも、米国で既に取り組んでいるものをやっていることがある。それは、論文数や特許件数にこだわるからで、陽の当たっているところの研究をやれば、研究費をもらえるし、論文が出るからであると思う。しかし、効率を考えると、そのやり方には疑問がある。

(3)鮫島氏から「日本がどのような点で問題なのか。米国がどういう点で使いやすいのか」との問いに、加藤氏は「損害賠償の額が余りにも低いと思われることと、もう少し証拠調べができるようになると、訴訟を開始しやすい」と答えた。

(4)妹尾氏から「今日遅れたのは、今まで政府の知財戦略本部で議論していたからだ。タスクフォースが第2ラウンドに入って、クラウド、LED、蓄電池、IPS細胞について議論していた。どれも相当危い。特許が取れてないでなく、ビジネスモデルで問題がある。日本はモノづくりで勝とうとしていたことが裏目になった。上下のレイヤーを既に抑えられてしまった。IPS細胞も特許が取れたことが裏目となっている。日本はお人好し。産業との?がりで、どこを押さえるかが弱い」と報告。
 秋元氏から「基盤的なことは、できるだけ早く使ってもらって、その上で産業が必要なところを押さえる」、妹尾氏から「装置とか、検査手法が遅くれている」との発言があった。

(5)妹尾氏から「IPSは、半導体モデルである。IPSは、モノづくりだから良いものを作れば勝てると思っているが、そうではない。クラウドのLEDも電池も上位レイヤーを全部おさえられている。オープン、クローズの見方が広い範囲になっている」。

(6)加藤氏から「クラウドではすべてがオープンになる可能性がある。どのレイヤーを、どの点を自分で取るかで違う」。

(7)秋元氏から「アメリカ流に、オープンにする時には、出口のところで自分がどこをやるかのモデルが出来た段階で、オープンにしている。ここで特許を取る意味がある」。

(8)石田氏から「事業の範囲、事業の役割、アライアンスを明確にしてからでないと勝てない。知的財産制度、著作権制度、ノウハウ制度を含めて、制度自体を見直さないとインターネット時代には問題がある。現在の延長線上、権利の制限問題を国家的に、国際的に整理すれば良いのか。インターネットの時代は、排他権ではなくて、報酬請求権だけを部分的に考えなければ解決しないのか。現在のままで、ビジネスモデルあるいは権利行使のモデルで納得できるのか。知財は工業財である。排他権を与えれば良いという哲学を整理しないと、事業では業績が下がる」。

(9)荒井委員長から「社会の価値観が変わるから、知財についても変えていく。自由と独占、公開と独占のバランスが変わる。今は公開することで、全体の進歩につなげて行く方にシフト。インターネットやフェイスブックのほうが便利だと言うなら、そちらを支持する。世界は変わっていく。日本も時代とともに変わるべきだ。特許は独占権といった考えにこだわるべきでない。もともと特許は社会の進歩のためにある。独占して進歩するなら良いが、今は終わった。公開することで仲間を増やし、そしてグループサポーターを増やすのが良い。日本は昭和34年にできた特許法から進歩していない。特に著作権などは進歩していない。グーグルブックで海外が進歩しているのに、日本は遅れてしまう」。


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