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サービス・イノベーション研究委員会報告

第16回 サービスサービス・イノベーション研究委員会(平成22年12月17日)

 平成22年12月17日午後6時、東京都千代田区の日本記者クラブ大会議室において第16回サービス・イノベーション研究委員会を開催した。角忠夫委員長より「本日は、合宿・研修のための準備について検討したい。また、前回に準備していてできなかったものについて討議を行う」との開会の挨拶があった。
 多田和市氏より『日経ビジネス特集:稼げるモノ作り』の紹介があった。「サービスをきっかけにモノ作りを展開していく事例を見ているが、色々な観点で日本のモノ作りが大変な時期である。コマツは、円高にもかかわらず12%の利益率を挙げ、株価も上がっていて評価が高い。成功事例として、参考になる」との紹介があった。  本日の委員会では、日立製作所の平井千秋氏から「製造業サービスシフトのビジネス類型」、山武の福田一成氏から「サービスの価格に関する論点とイノベーション事例」、富士ゼロックスの武田優氏 から「サービスによる省コスト効果事例」と題する報告があった。

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「コストベースではなく、価値ベースでの見積りが課題」と報告する武田氏

■第16回 サービス・イノベーション研究委員会での講演概要

1.「製造業サービスシフトのビジネス類型(収益の観点から)」平井千秋氏

 「ビジネスモデルを類型化して儲かる仕組みを知りたい」、「製造業のサービスシフトには、いくつかの儲かる仕組みがあるといった結論を得たい」と考えて、前回から検討している。<>  そこで、まず世の中の人が考えていることをベースに検討することを考え、事業一般の儲かる仕組みについて調査して『ザ・プロフィット』)という専門書を発見した。その本に書いてある23の儲かる仕組みの中で製造業のサービスシフトにあてはまるものを取り出せば、サービスシフトで儲かる仕組みが言えるのではないかと考えた。

また、製造業のサービスシフトにどんな類型があるかについて『製造業のサービス事業戦略』 (エイドリアン・J・スライウォツキー著、中川治子訳、ダイヤモンド社)では、23の儲かる仕組みが報告されているが、その内6つの利益モデルが対応した。

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「製造業のサービスシフトを考える時、6つの視点を参考にすれば、新しいサービスの観点が出てくる」と報告する平井氏。

6つの利益モデルを紹介する。
(1)顧客ソリューション利益モデル
製品とサービスを統合して顧客ごとにカスタマイズし、お客をよく知って丹念に取り組んでいこうというモデルである。

(2) スイッチボード利益モデル
流通を押さえて利益を獲得するモデル である。コカコーラは、自社製品の流通チャンネルをコカコーラ自社で持っている。流通までを自社が行うことで、顧客満足度を向上させると同時に、顧客に 対する価格交渉力を維持することができる。

(3) 利益増殖モデル
 自分たちが持っているスキルを製品以外であるサービスとして提供するビジネスモデル。自社の製品を開発する技術力、すでに持っているチャネルや流通などを用いたサービス事業を行うことで製造業からのシフトに取り組む。

(4) インストールベース利益モデル
 一回納めた製品に対して、その製品向けのサービスを次々に提供するモデル。自社製品の販売後、その製品に関する消耗品やアフターサービスを売ることで利益を得る。

(5) 販売後利益モデル
 自社に限らず、他社が出している製品に対してサービスを提供していくモデル。他社の製品に対しても、消耗品やアフターサービスの販売に取り組む。

(6) デジタル利益モデル
 ITを組み合わせることでサービスをするモデル。ITによってサービス業務を改善したり、ITと製品を融合させることで、価値の提供サービスに取り組む。

製造業のサービスシフトを考える時、6つの視点が参考になる
仮設として「製造業のサービスシフトには、6つの儲かる仕組みがある」とするのが、私のスタンスである。この仮設を出発点にして、この委員会で各社の事例がどこに当てはまるかを検証し、当てはまらないようであれば、項目を修正したら良いと考える。

2. 「サービスの価格に関する論点とイノベーション事例」(福田一成氏)
サービスの価格の論点は、モノの価格からコトの価格になってきている。この時問題なのは、モノは目方で計れるが、コトは計ることができない。サービスを受ける側によって、価値が変わる。そのため、交渉による価格設定が多く、色々な変動性があり、需要志向による価格評価、見積りによる交渉などで、価格設定が行われている。

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「ESCOという省エネサービス」を報告する福田氏(中央右)、中央は武田氏。

製品を売ってサービスを一緒に行おうとすると、色々なしがらみを考慮しなければならず、製品と切り離してのサービスの提供も難しい。
 お客にどのような価値があるのかを定量化しなければならないが、お互いが納得できる土俵で決めなければならない。それぞれに相反する立場で、明確に納得できる 価格設定は難しい。
 サービスは、定期点検などメンテナンスについては、価格弾力性がなく実勢価格で決まっているが、ソリューション的なものになると、それがどのような価値になるか は、色々な手を使って価格設定が行われており、弾力性が高い場合が多い。
 サービスの価値定量化による価格設定の例として、エネルギーは定量化しやすい分野なので、そこを考えた。サービスによる省コスト効果の事例として、富士ゼロックスの事例を用意している。顧客にとっての価値をどのように出していくかについては、一般的な見方としてコストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチなどがある。

3. サービスによる省コスト効果事例(武田優氏 )
 エネルギーのように定量化がしにくいサービスの事例について、CO2を対価に還元するという取り組みの視点で、コピー機の業界で行われている事例を題材に一つの考え方を紹介する。プリンターや複合機、顧客に目に見える部分で消耗品やメンテナンス部品といったものを直接削減していくモデルがあるが、サービスとしてのビジネスにはあまりうまみがないので、何らかの価値転嫁をしなければならない。

コストベースで可視化をするのが従来のモデル
 コスト削減モデルについて説明する。複数台のプリンターを1台に集約すると置き換えた瞬間に効果が出て、そこから運用に伴ってどのくらいコストが下げられるかを、コストベースで可視化をするのが従来のモデルである。こうすると使っている紙を両面にして半分、両面に複数アップでさらに半分、これに複数台プリンターの集約と、枚数削減で削減効果が見える。

コスト削減から別の価値に転換して顧客に提案
 簡単に固定費、コスト算出費用項目について見ると、ランニングコスト、保守料金、用紙コスト、電力コスト、さらに複数台の機器を集約した際のスペース換算コストが挙げられる。これらの情報をベースに顧客に提案をしている。こうした効果による提案をサービスと言っても、うまみのあるビジネスにはならないのが実情である。
 そこでコスト面からの削減だけでなく、CO2排出削減効果のように別の価値に転換して顧客に提案するというのが、さきほどのエネルギーモデルとの接点となる。

コストベースでなく、価値ベースでの見積りが課題
 同じようにCO2削減モデルについて説明する。複数のプリンターを集約し運用によって削減した場合、年度当たりどのくらい下がったかをモデル化した図になる。出力枚数の削減、消費電力の削減を掛け合わせるという単純なものでなく、トータルにCO2排出量を換算して効果金額を算出して、顧客の価値とマッチングできれば、サービス化、サービスの料金の決定ができると考えた。
 コストベースでなく、価値ベースでの見積りが課題である。


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