一般社団法人日本MOT振興協会

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第4回政策首脳懇談会を開催(2011年4月13日)

平成23年(2011)3月11日に起きた東日本大震災と福島原子力発電所事故という日本の非常事態は、21世紀の初頭にあって、世界の中の日本の進路を大きく変える歴史の大分岐点になることは間違いない。科学・産業技術に精通した日本を代表するトップリーダー達が結集している当協会は、4月11日に「緊急政策首脳懇談会」を開催して復旧・復興対策を討議してまとめ、5月19日の平成23年度総会・理事会において、『東日本復興を基盤に「日本新生」』の政策提言を審議して承認した。政府の事故調査・検証委員会の委員長に、畑村洋太郎諮問委員(工学院大学教授)が就任したが、今後、広く内外社会に政策提言の実現を訴えていく。


全員発言で活発な意見交換が行われた
(帝国ホテル鶴の間)

[ 概 要 ]  (政策提言 全文PDF

 平成23年(2011) 3月11日に突然勃発した東日本大震災と福島原子力発電所事故から2カ月を経過し、政府、地元自治体と東京電力など関係者の総力を挙げた復旧・復興対策が本格的に進み始めた。
 さらに、これと併行して、政府は第2次補正予算の編成に着手する一方、東日本大震災復興構想会議を新設して、6月末までに総合的な復興対策を答申する予定である。民間の企業や、大学はじめ教育機関なども、被災対策から前向きの復興対策に重点を移行し始めた。こうした日本の非常事態を前に、政官産学等の各界代表が緊急に参集して議論し、具体的な東日本復興対策と今後の「日本新生」についての討議結果をまとめ、それを平成23年度総会・理事会で審議して成文化した。この「政策提言」を政府及び内外社会に、広く訴え、長期の構えで実行につなげていくことになった。

現場の実情と要望を十分に吸収し、復興対策に反映し、対策の実行を急ぐ

 まず、大震災については、「津波」に関する研究や防災・避難対策の大幅な遅れを指摘したい。日本の地震予知は世界一のレベルにあるが、歴史的にも、「津波」と「防災」の研究開発が手薄な傾向がなかったとは言えない。次に、原発事故については、「冷却系統」及びそのバックアップ体制の脆弱性が挙げられる。原子炉の冷温停止には数年かかり、燃料棒が冷めるには10年、さらに廃炉には50年を要する長丁場である。
 現代は、情報が瞬時に地球上を伝播するグローバル時代であり、今回の大震災と原発事故の復旧・復興の過程を世界は注視している。こうした「グローバル社会でのグローバル危機」を認識して、世界に対して迅速、正確な情報公開を行い、風評被害をなくすと同時に、現場を踏査して、現場の実情と要望を十分に吸収して復興対策に反映し、しかも、時間軸を決めて、対策の実行を急ぐ必要がある。

「日本新生」を図るための6つの政策提言

 東日本復興を基盤にして、「日本新生」を図るために、我々は大きく6つの政策提言を行いたい。

・第1は、東北地域に対する道州制の早期の導入により、広域分権による防災、省エネ、医療などの都市構造や、産業構造の再生を図る。
・第2に、この広域圏を「再生特区」として、暫定的に20年間、法人税をゼロにしたり、外資の導入などの法制度上の優遇措置を推進する。
・第3は、東北地域は農・水産・牧畜など一次産業から、現在は、世界を支える高度な部品産業の集積地として重要な役割を果しており、これらの高度化と拡充に加え、今回の復興を通じて世界一のライフラインや完全医療ネットワーク体制などのサービス化の拠点を構築すべきである。
・第4は、世界一の国立研究開発機関を設立して、世界のヒト・モノ・カネを集約するなど、東北地域に「知」の総力を投入する。
・第5は、通信、海路・空路輸送、病院船など情報・運輸・交通・流通の安全システムの再検討と実行である。
・第6に、中長期のエネルギー需給予測に基づいた、新しい原子力対策の構築と、在来エネルギーの再拡充、自然再生エネルギー開発の強化、電力貯蔵・融通システム開発などの推進を挙げたい。

 東日本大震災の復旧には、日本全国から若い人達がボランティアとして積極的に尽力しているが、こうした前向きで優秀な若い人達は大勢おり、若い世代の人材育成に力を入れ、イノベーションを促進するとともに、大人世代がこれを応援する体制を作り上げたい。

21世紀の世界モデル創造のため、地道に着実に努力を積み重ねる

 また、米国と同様に、「年齢革命」によって、若年労働力と高齢労働力が円滑に調和する試みや、女性の活躍舞台の飛躍的な増大、アジア人など就業の国際化による多様性への挑戦も試みたい。いずれにしても、今回の大震災のように、数10兆円の資産を突然の自然災害で失うことになる。日本は、数1,000兆円にのぼる有形、無形の資産を蓄積し、保有しており、人類の持続性を確保する中で、我々は先祖からのこうした資産を守っていく必要がある。
 東日本復興と「日本新生」を達成していくのは、果てしなく遠い道程であるかも知れないが、我々の後世と世界に貢献できる21世紀の世界モデルの創造のために、地道に着実に努力を積み重ねていきたい。

平成23年5月19日
一般社団法人日本MOT振興協会
会 長 有 馬  朗 人

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有馬会長が「大変な時代になった。皆さんの知恵を集めて現在の日本の危機的状況、科学技術に対する不信感を救うべく、皆様のお考えをお聞かせ願いたい」と冒頭挨拶。左は相磯秀夫氏、右は林芳正氏



緊急政策首脳懇談会 出 席 者
来賓・政治家    
  林  芳正 元防衛大臣・元経済財政担当大臣、参議院議員
藤末 健三 参議院議員  
  (随行) 寺田 和弘 (秘書)  
協会幹部  
会 長 有馬朗人(武蔵学園学園長)
最高顧問 相磯秀夫(東京工科大学理事)
諮問委員 小島 明(日本経済研究センター研究顧問)
  畑村洋太郎(工学院大学教授)
副会長 安西祐一郎(慶応義塾学事顧問・教授)
  児玉 文雄(東京大学名誉教授)
  近藤 史朗(リコー社長 代理 永松荘一)
  野田 豊範(東海旅客鉄道副社長 代理 小菅俊一)
  野依 良治(理化学研究所理事長)
専務理事 橋田忠明(日本経済新聞社・社友)
理  事 荒井 寿光(東京中小企業投資育成社長)
  伊賀 健一(東京工業大学学長)
  石田 寛人(金沢学院大学名誉学長)
  加藤 幹之(インテレクチュアル・ベンチャーズ日本総代表)
  榊原 定征(東レ会長 代理 岡田武彦)
  則久 芳行(三井住友建設社長)
設立 五十嵐久也(芝浦工業大学理事長)
発起人 國井 秀子(リコーITソリューションズ取締役会長執行役員)
  藤本 隆宏(東京大学経済学研究科教授)
  渡辺  修(石油資源開発社長)
事務局長 小平和一朗(イー・ブランド21社長)

協会役員との意見交流

 「自己紹介を含めお一人1分をメドにお話し頂きたい」との司会で、参加者全員から意見が出された。
 その中から、野依良治氏、石田寛人氏、畑村洋太郎氏、伊賀健一氏、藤末健三氏、林芳正氏からの意見を以下に報告する。

中核都市を東北に作り、そこに世界一の国立研究開発機関を作って欲しい

 野依良治:「今回の震災から復興しなければならない。復旧であってはならない」「 政府機能を東北に移転する。もう1つは、道州制を実施する。産業構造を変革して、水産、農業、林業などを中心とした、世界に冠たる、中核都市を東北に作る」「科学技術では、そこに世界一の国立研究開発機関を設立する」「復興ということで、考えが内向きになり勝ちであるが、これからは日本だけでは生きていけない。世界の力を借りて、世界の最高の人達が共感を持って、そこに集まるような研究所を作って頂ければと思う」と述べた。

冷温停止の状態には数年かかり、炉の中の燃料棒が冷めるのは10年オーダー

石田寛人:「津波によって起こった福島第一原子力発電所の事故、対応の仕方に困るほどの事故であった。この事故の原因は原子炉の生命線ともいえる通常冷却系統が損なわれ、原子力の関係者が考えた緊急冷却装置が働かなくなったことが原因」「 『冷却機能が無くなったらどうなるか』は、原子力関係者は知っており『こんな事態にはならない』と思っていた。海抜10mのところに原子力建屋があり、更に海の方に向かってタービン建屋、あるいは復水器などがある冷却系がある。当然、数十メートルの津波が来れば機能を失うことは明らかであった。『そういう津波が来ることはない』と想定して、原子力発電所は大丈夫だと原子力関係者は説明してきた。その説明が敗れた。そういう想定した関係者は、痛切に反省すべきだと感じている」「冷温停止の状態には数年掛かる。炉の中の燃料棒が冷めるのは、十年オーダーだと思う。それから、もし原子力発電所を解体することになると、50年近くかかると私は考えている」と話す。

「ありうるべきことが、起こらないと勝手に決めていたから起こった」と考えるべきである

畑村洋太郎:「津波には関心を持っていた。今回ひどくやられた田老町には、15、6年前に現地に行って、消防団の人達と議論をして、どこまでをどう想定するかとか、何をどう訓練するかを議論してきた。10mの高さの堤防に立ってみると家がずっと下に見え、まさかと考える。はるか上の6mを家が流れて来ている。どこまで考えて勝手に安心することに意味が無いことを、いやと言うほど証明されてしまっている」「上位概念で言うと『ありうるべきことは、起きる』ということで考えるべきで『ありうるべきことが起こらないと、勝手に決めていたから起こった』と考えるべきである。『見たくないものは見えない』『聞きたくないことは聞こえない』『考えたくないことは考えない』こういうことが起きている。今回の一連のものを見ていると『全体像をつかむ人がほとんどいない』ということ。全体像を持たないのに、専門家と称する人が、あちこちから色々と言ってくるが、言ってくる一つ、一つは合っているが、全体で見ると言わないほうが良いことを言っている」と語る。

原子炉の問題は国際チームを作って、リーダーシップを持った人がオーガナイズする

伊賀健一:「 『塩水の注入は、塩で固まってしまうから、真水に変えろ』を総理に申し上げたり、『放射線のデータに間違いがある』と指摘したのは、東工大の人間である」「原子炉の問題は国際チームをきっちり作って、リーダーシップを持った人がオーガナイズすることが必要だ」「放射線は、モニタリングと色々な情報の提供がまちまちである」「学内に放射線対策室を作り、有識者を集め、提言ができる体制を作った」「原子炉は原子炉のほうで対策室を作り、政府に提言できる専門家のチームを作った」「ODA、外国しか助けられないが、ODAの予算と人員を国内の復旧に振り向けるよう、法律を変えて振り向けてほしい」と発言した。

やらなくてはいけないのは、政治の仕組みの中での失敗をどう乗り越えていけるかという点

藤末健三参議院議員:「今日、感じたのは、畑村先生の『ありうるべきことは起きる』ということで、政治家は、前向きなことを言わなくてはいけないが、心配している一つは余震で、もう一つ心配しているのが、財政の問題。今までの状況と一番違うのは、国に財政力がないことで、数十兆円の財政負担をどうするのか。本年度の税収は極限的に減ると思う。 「ありうることは起きる」ということから考えると、余震と地震、津波、原子力発電所と来て、3つクライシスが起きたわけで、4つ目のクライシスがないように備えるのが、私たち自身の役割ではないかと思う。組織的な失敗というのを畑村先生が話されており、それは政治の世界でも組織的な失敗が起きているなと考えている。私がやらなくてはいけないと思っているのは、政治の仕組みの中の失敗をどう乗り越えていけるかという点だ」と説明した。

もう元に戻らない、それはもっと良い街にするのだから

林芳正参議院議員:「大変参考になるご意見を沢山頂いた。後ほど議事録でも頂戴できたらと思っている」「自民党では4つほど会を作り、 取り組んでいる。 4つを同時に走らせながら、短期のものを先に出して、中期な項目は、後で追ってという形で作っている」「最後に、2001年9月11日、ジュリアーニ市長が行った演説で、『ニューヨークは、もう元に戻らないと、私に言う人がいる。私もその通りだと思う。それはもっと良い街にするのだから』と言って、ニューヨーク市民の気持ちを鼓舞したという話がある。我々もそういうリーダーシップを発揮しなければならない」と報告した。

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「これからは日本だけでは生きられない。
世界の力を借りて、世界の最高の人達が集まるような研究所を作りたい」と話す野依氏。

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「10m以上の津波は、来ることはないと想定していた。関係者は痛切に反省すべきだと感じている」と話す石田氏。

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「全体像を持たないのに、専門家と称する人が、あちこちから色々と言ってくる。一つ、一つは合っているが、全体で見ると言わないほうが良いことを言っている」と語る畑村氏。

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「『塩水の注入は、塩で固まってしまうから、真水に変えろ』を総理に申し上げたり、『放射線のデータに間違いがある』と指摘したのは、東工大の人間である」と話す伊賀氏。

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「余震と地震、津波、原子力発電所と来て、3つクライシスが起きたわけで、4つ目のクライシスがないように備えるのが、私たち自身の役割ではないかと思う」と話す藤末氏。

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「 自民党では4つほど会を作り、 取り組んでいる。 4つを同時に走らせながら、短期のものを先に、中期な項目は後でという形で・・」と話す林氏。

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