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サービス・イノベーション研究委員会報告

第8回 サービスイノベーション研究委員会(平成22年4月16日)

平成22年4月16日午後6時、東京都千代田区の日本記者クラブ小会議室において第8回サービス・イノベーション研究委員会を開催した。今回の委員会では、キッコーマン(株)研究開発本部半谷吉識氏が「キッコーマンのサービスについて」、また東レの高林和明氏が「東レのサービス活動について」報告があった。

■第8回 サービス・イノベーション研究委員会での講演概要

1.キッコーマンが取り組んでいるサービス

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「野田工場に「まめカフェ」という新しい
フードコートを作って、醤油の啓発を図っている」と語る半谷吉識氏

 現時点でキッコーマンが取り組んでいるサービスについて紹介があった。キッコーマンは、千葉県野田市に多くあった醤油メーカーのいくつかが合併し、その前身が生まれた。


醤油の流通経路の紹介

 醤油を代表に弊社の商品の流通経路を紹介する。工場で醤油を作ると、一端倉庫に入る。ここで在庫として抱えるのが弊社の商品である。豆腐や納豆などのようにその日の内に配達しなければならない物ではないので、工場で作り、いったん倉庫に保管される。その後、問屋に行って、量販店や小売店のところに商品が流れて、一般家庭に入る。


キッコーマンが取り組んでいる食育活動

 キッコーマンのサービスとして、食育活動を行っている。技術情報誌を無料で発行していて、弊社の商品にこのようなものがあるかを載せている。日本人の食生活が乱れている。
 我が国の食料消費割合の変化を見ると、昭和35年頃には米に依存しているが、平成16年と比較して摂取カロリーは変化していないが、中身が変化している。平成16年では、米の消費が減っている。畜産物や油の割合が多く占め、完全に食の欧米化が進んでいる。栄養バランスの偏りや、不規則な食事のために肥満であるとか生活習慣病の増加などが見られる。日本の自給率は約40%、海外から60%が入る。


サービスがビジネスに結び付いてきた

 各地の醤油工場を見学できる。見学するだけでなく醤油を作る体験をやってもらい、醤油を身近に感じてもらうことに取り組んでいる。基本的に小学生が中心。箱の中に醤油の原料の麹を入れておく。この麹は発酵すると熱が出てくる。触ると生きているイメージがわく。
 出来た醤油を使って、煎餅を食べて頂くことをやっている。醤油を煎餅に塗って、その場で食べてもらう、実際に匂いを嗅いでもらうことで、記憶に残すことをやっている。


食育の場などを活用してビジネスにつなげていく

 野田工場には「まめカフェ」という新しいフードコートを作って、醤油を使ったメニューで醤油の啓発を図っている。家庭用で販売している醤油には30種類ある。加工用、業務用を含めると、400アイテムある。豆腐に何種類かの醤油を付けて食べ、味がこんなに違うというコーナーを設けている。醤油ソフトクリームなどの商品を有料で提供したりして普及を図っている。醤油をソフトクリームに練りこんでいて、醤油の味でなく完全にキャラメルの味になる。醤油の違った使い方を体験できる。そこでは、弊社の製品も販売していて、年間に何千万円の単位で売上が上がる。サービスからビジネスに結びつけていく部分であると考えている。
 食品メーカーとしては、本来のサービス対象を家庭のお客様と考えているが、なかなか直接の接点がない。こうした食育の場などを活用してビジネスにつなげていきたい。


質問:全体の売り上げに占める醤油の比率は。
回答:国内では醤油の割合が45%、残りは食品になっている。

質問:醤油というプロダクツが減ってきたなかでの今後の展開は。
回答:アメリカに出て丁度50年になる。海外全体は10〜15%の伸びがある。ターゲットとして、ヨーロッパ方面、中国、インドに注目している。

質問:各地域で味は変えたりしているのか。
回答:変えている。地域特性があり、東南アジアは酸っぱいものは好まれないので、乳酸発酵させないものにしたり、宗教的にアルコールが駄目であるところもあるので、それに対応している。

質問:醤油は和の食文化サービスするコンセプトの中心製品だが、醤油にあう料理や素材との組み合わせの良し悪しなどをキッコーマンで検討しているか。
回答:アメリカでうまくいったのはそこにある。肉料理に醤油があうことをアメリカ人に理解されたのが北米で大きく伸びた理由である。

2.新しい価値を作ることが会社全体のキーワード

 東レの高林和明氏から東レのサービス活動について説明があった。高林氏はポリエステル・フィルムの営業、全社組織のマーケティング企画室に勤務する。東レは、繊維から、プラスチックから、医薬品など多方面であるため全社的組織でマーケティングができない。一般に言われているマーケティングは営業の仕事となる。東レの営業は、マーケティング&セールスだと言われて、商品企画から開発、プロモーション、価格戦略すべてをするのが特徴である。


イノベーション・バイ・ケミストリーをスローガン

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「1番駄目なのは、自分の言いたいことを言って。相手の話をほとんど聞かない人」と報告する、東レの高林和明氏。

 経営理念は「新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」で、新しい価値を作ることが会社全体のキーワードとなっている。今の社長は「イノベーション・バイ・ケミストリー」をスローガンにしている。繊維の売り上げで40%、プラスチック・ケミカルが26%、電子情報材料、例えば携帯の画面のフィルムが有名、炭素繊維は有名だが5%程度、その他水処理、薬ではインタフェロンをやっている。
小学生に説明する時、「これなあに」というと「ペットボトル」という。ペットボトルの材料はポリエステル。ポリエステルを固めると、こういうものになるし、1次元にポリエステルを糸に引いて編むとワイシャツになる。


ポリエステル・フィルム、世界シェアナンバーワン

 ポリエステル・フィルムは世界の6拠点で36万トン生産し、世界シェアはナンバーワンである。歴史を見ると、海外メーカーのICIやデュポンが昔は中心だったが、今は日本を中心に韓国のSKCと、この4つで全世界を占めている。
 成長してピークを迎え、衰退するようなことがマーケティングの教科書に書いてあるが、ポリエステル・フィルムは、昭和32年に生まれて50年以上経っていまだに延び続けているという、化け物の商売である。色々な用途が開発され伸びて、その中心が入れ替わってきた結果である。
 磁気材料、ビデオテープ用のベースフィルムをやっていて、世界の7割をやっていたこともある。ビデオテープが用途の半分のこともあったが、それは終わった。


素材メーカーにおけるサービスはビフォアサービス

 素材メーカーにおけるサービスは、ビフォアサービスである。モノを売りながら情報を提供する。技術情報であったり、生産技術情報であったり、業界情報を提供しながら売っていく。提案営業がメインになる。アフターサービスは余り無い。どちらかといえば継続して売っていることが多い。
 「ワンストップ・トータルサービス」という取り組みがある。色々な商品を売っているので、例えば車の用途では、繊維の部隊も、樹脂の部隊も、フィルムの部隊もばらばらに行っている。それでは効率が悪いので、何か開発がある場合には担当を決め、この人に聞いたらわかるという事をやっている。自動車には、そういう組織がある。


提案営業とは何か

 提案営業について紹介する。提案営業は難しい。
 例えばお客から「値下げをしてくれ」と言われて、値下げするのは提案営業ではない。
 「値下げをしてくれ」はニーズとは言わない、それはお客様のデザイヤーである。客が気付いていないことを一緒に見つけ出すことが、提案営業だと考える。
 提案営業ができる営業マンを根付かせるために、「活動指針カード」を全営業マンに配布した。ここには「お客様志向の提案営業の徹底」、「営業としての基本動作を徹底しましょう」、あと「利益に対するしなやかな強かさの徹底」が掲げられる。  5つの活動指針を示している。


●挨拶が基本になる

 挨拶は、かなり難しい。最近は中学校に授業で出掛けるがひどい。
 分かるということと、出来るということは違う。
 初対面の人の印象は、6秒で決まるという。いくら良い提案を持っていっても、第一印象が悪ければ相手にもされない。そのためには、まず挨拶が重要である。


●聞き上手が営業の基本

 自分の製品の説明だけで、7割話しをして、客の話しを聞かない。これは駄目。
 問題解決には、お客から聞かなければならないのに聞かない。
 「聞く」と「聴く」とは違う。客の話を聞くコミュニケーション能力には5段階ある。
1番駄目なのは、自分の言いたいことを言って。相手の話をほとんど聞かない人。
2番目の人は、一応聴くが相手が言ったことを、自分の都合の良いように聞いて帰ってくる人。
3番目は、相手の言ったことを正確につかむ人。
4番目は、相手の言ったことの背景までつかむ。
 一番優れた営業マンは、相手の気付いていないことに、一緒に気付く人。
 質問していって、「あなたと話していたら、自分の分からないことに気付いた」といわれ感謝されること。
 自社の製品の開発のためでなく、お客様のためにということを前面に出してやらないと駄目である。


●お客様・市場の声に耳を傾け、製品を学ぶ

 真の顧客までの間に1つまたは2つ、間に部品メーカーが入っている。
 ここと話しをしても本当のニーズは分からない。先の先に先に行かないと本当のニーズは分からない。


●お客様はいい提案を待っている。

「お客様はいい提案を待っている」という。お客様のニーズを把握して、ニーズにあった提案を考えながらやっているのか。それに対して我々の商材が、解決策が、提案できるかがポイントになる。


●創意工夫なくして利益なし

 利益は、創意工夫なしに生まれない。東レだけ儲けて、お客様が儲からないでは長続きしない。お客様だけ儲けて、東レだけ損をすることもない。目指すのは「Win−Winの関係」とか、「近江商人の3方良し」「売りよし、買い手よし、世間よし」である。そうやっていかないと長続きしない。
 我々が常に考えているお客さまとか、その先のお客様の構造はC4という。カスターマーズ・カスタマー、コンベジターズ・カスタマーの関係を、これを常に頭の中に描いて、自分のお客様がその先のお客様に対して何を求められているかを考えながら、お客様の役に立つ提案をすることが重要になる。
 これを考えていないと、ある時商売が終わる。


勝ち馬に乗ることが大切

 「顧客の戦略は何か」、「顧客は競合の関係でどちらが強いか弱いか」を、それと「自分ところと競合の関係」。場合によっては、顧客でなくてこちらに売ったほうが良いということもある。
 4方8方に売るというパターンではなくて、むしろ勝ち馬に乗る。誰が勝ち馬かを見極めて、そこと組んでいく。そこに対してサービスを提供して、そこがその先の顧客で勝てるようにするという取り組みをする。弊社の営業は、それを良く考えてやっている。


質問:顧客の顧客の戦略というのはどうやって理解するのか。顧客は言えないこともあるのでは。
回答:聞きに行くしかない。色々な市場調査会社があるが、ほとんどあてにならない。ただし、東レが顧客の顧客にいくことを顧客はいやがるので、実は難しい。

質問:聞き上手の能力をアップするための教育はあるのか。
回答:商談研修を新入社員1年目と3年目に行う。その時にやる意味をしっかり教えている。メールで情報を全部うのみに信じるのは間違いで、人の顔色を見ながら判断することが大切だと教える。

質問:営業が技術のことを知らないと難しいのではないか。技術者が一緒に行ったりするのか。
回答:医薬、電子材料、水処理膜を売っている人は、ほとんど技術者。基幹産業の繊維や樹脂は8割方事務系。はじめの1年間、自分が担当する製品の工場で勉強する。ある程度技術を知らないとだめ。


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