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知的財産委員会報告

第6回 知的財産委員会報告

平成22年4月5日、東京・内幸町の日本記者クラブ9階の小会議室にて、講師に東京大学特任教授の妹尾堅一郎氏を招き、第6回知的財産委員会(委員長・荒井寿光氏)を開催した。最後に「この委員会は、知的財産問題について、国際的にも、新しいものを創り出して、純粋理論的に発言し続けることが重要」と荒井委員長は締めくくった。

■第6回 知的財産委員会での報告

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妹尾氏からの報告を聞く、委員会メンバー。
写真右から秋元委員、石田副委員長、荒井委員長、
鮫島委員、橋田専務理事、加藤委員

4月5日講師に妹尾堅一郎氏(東京大学特任教授・NPO法人産学連携推進機構理事長)を迎え、荒井委員長、石田副委員長、加藤幹之富士通総研専務取締役、鮫島正洋弁護士・弁理士、秋元浩知的財産戦略ネットワーク社長、橋田専務理事、小平事務局長が参加して第6回知的財産委員会を開催した。




8人委員会、金は使わず知恵だけで行く

最初に前回議事録(2010年2月18日)を確認した後、荒井寿光委員長が「当委員会では、経営、MOTの中での知財について、詳しい知識と見識を持っている方々に委員を依頼している。明治以来1 0 0年、知財は制度論ばかりやってきた。21世紀、2010年代には、新しいバージョンでフリーな考え方をする必要がある。議論の時期にある」と語り、この「“8人委員会”は皆平等で、@政治的に中立A営利を目的としないB金は使わず、知恵だけで行くC思想は自由で縛られない−−を原則として進みたい」と述べた。

大変革期にある知財の在り方を研究

そして、4月19日開催の当協会の平成22年度総会・理事会では、メンバー各自の知財提言をまとめた「バージョン2010」を荒井委員長が発表することにした。政府与党の民主党や経済産業省、日本経団連などに「知財見直し」の動きがある点を、荒井、加藤両氏が指摘し、「世界各国は知財に必死に取り組んでおり、例えば、米国では有力なシンクタンクが一斉に世界経済、ビジネス、経営などから大変革期にある知財の在り方を研究している」との危機感溢れる発言があった。

日本は、技術で勝って、なぜ競争で負けるか

続いて、妹尾教授は「鳩山政権の新成長戦略の『知財』と『標準』に加え、『ビジネスモデル』が必要である。直嶋大臣出席の産構審国際競争力部会では、『技術で勝って、な ぜ競争で負けるか』との視点から日本の産業のダメなデータを提出した。鳩山首相の知財戦略本部では、『知』を使う知、技術を使う知の重要性と、知財マネージメントと国際標準化の重要性を指摘した」との発言があった。また、石田教授は「経産省の議論には、正しい危機感がない。大局的な正しい方向性を示すべきだ」と強調した。  その後、妹尾教授が「知財マネージメントのイノベーション」と題して講演した。

『国際競争力のからくり−−多様化する技術経営と知財マネジメント:知を使う知の時代へ』 

日本製品の凋落 国際市場が拡大しているのに国際シェア低下(DRAMメモリー、液晶パネル、DVDプレイヤー、太陽光発電セル、カーナビ)のグラフと、問題意識(1) 最近の日本は、なぜ、技術があるのに事業では勝てないのかなどと、問題意識(2) 日本の半導体産業は崩壊、しかし、インテルは高収益、何が差をつけたのかなど。
 妹尾教授の説明では、第1は、1980年代の栄光の再来を願う動きがあるが、日本MOT協議会(専門職大学院のMOT研究科長10名の集まり)に見られるように、知財と言えば出願制度ばかりを云々し、知財モデルは20〜30年前のものであり、第2に、大企業経営者に多いが、ビジネスモデルの急速な変化に気付いていない。「技術があるのに、なぜ事業に勝てないのか」。
 東京・秋葉原では、メイド・イン・アジアの製品ばかりで、日本製品がない悲惨な状態になっている。
 昨年度のスイスIMD(国際フォーラム)調査で、日本は世界17位であり、総合技術力の最高レベルに日本の経営が追い付いていない。

競争力モデルの変容 

@個人発明家によるイノベーションA単独1社による「画期的発明駆動型」イノベーションB複数の「切磋琢磨型」イノベーションC新しいビジネスモデルと知財マネジメントによる「国際斜形分業型」イノベーション−−について、60年代半ばまでのGE、デュポン、コダック、ゼロックスや、70〜80年代の日本の自動車、大手電機メーカーの具体例を挙げて説明した。特に、Cのビジネスモデルの勝負では、インテルと台湾(インテル・インサイド(基幹部品主導型))とアップルと台湾(アップル・・アウトサイド(完成品主導型))のように、欧米企業のビジネスモデルに変化が見られ、プロパテントからプロイノベーションヘの変容を強調した。
 妹尾教授によると、「競争力モデルが違う試合になっている。つまり、相撲からテニスの試合に変わっている」ということであり、「『すり合わせ型』(インテグラル)では日本は勝っているが、『組み合わせ型』(モジュラー)では負けている」と説明している。
 第1段階では、製品アーキテクチャーは知財マネジメントと標準マネジメントが重要であり、第2段階のインテルのマザーモード開発と台湾メーカーヘの供与、第3段階では、インテル・インサイドから「部材ブランドによる完成品の強化」となる。「外インテグラルー内モジュラー」の形成で、「テクノロジー・インサイド」とも言える。ヤクルトのシラタ、林原のトレハ、コカコーラのフリー(アステルパーム)、ユニクロのヒートテック、パナソニックのナノE、ダイキンのストリームなどに見られる。

一方、アップル・アウトサイドでは、コンセプト主導であり、部材はほとんど日本製、と言われたが、価値レイヤーは下方に移動し、iPodの部材は東芝から台湾に移動した。
  「MOT(技術経営)=知財マネジメント」である。 iPod×iTunesは、モノとサービスの相乗化である。下位層のオープンでは、例えば、本社東京新宿区/R&Dセンター大垣市の頓知・(トンチドット)という日本のベンチャー企業は、4日間で10万のダウンロードという世界でも初の大ヒットを飛ばしたが、1ヵ月前にアップルのサイトから切られた。しかし、ソニーとつるんだソフトを開発して、再び復活した。



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「単一商品だったのが商品名が付いて
市場原理が働く。電力にタグが付く意味がある」
と語る妹尾教授

ビジネスモデルの変容と多様化
 スタンドアローンからネットワークヘ、単体から複合体へ、単層から複層へに加えて、商品サービスシステムを俯瞰的に認識せよ!とビジネスモデルの変容と多様化について、具体例を挙げながら説明した。
 それは、@スティーブ・ジョブズはユーザーを向き、ソニーや松下は業界を向いていたAインテルは内側から外へ、アップルは外から内へBパソコンは、1990年代は計算機、2000年代はメディア、2010年代はネットワーク・サービスのインタフェースCオペレーション・ビジネスとして、月島機械の大阪府下水道事業25年契約、ダイキンの空調サービスから空調製品へ。 NTTもビジネスモデルは変わるはずDIBMのスマート・グリッドの欧州での展開、私は悲観的。
 第2のインターネット覇権争いの見方。電力にタグが付く意味があり、(1)単一商品だったのが商品名が付いて、市場原理が働く(2)電気自動車の普及により、価格の平準化が進み、産業構造の転換(3)スタンドアローンの家電製品がネットワーク化する、などの画期的な変化を生じるなどの説明をした。

知的財産問題、新しいものを創り出して、純粋理論的に発言し続けることが重要

妹尾教授の講演の途中で閉会の時刻になったので、荒井委員長が「この委員会は、知的財産問題について、国際的にも、新しいものを創り出して、純粋理論的に発言し続けることが重要だと思う。そのため、メンバー全員が『MOTと経営者のための提言10項目』を提出して、それらをまとめて対外的に発表していきたい。当面、予定される運営企画委員会は石田副委員長、総会・理事会は荒井が発表する。また、アクション・プランにつながるよう、ホームページでも掲載していきたい」と締めくくった。
 次回の第7回の知的財産委員会は6月17日(木)午後零時〜2時で、場所は東京・神田錦町の學士會館で開催することにし、加藤幹之富士通総研専務が「クラウド時代の知的財産問題」のテーマで講演を行い、また、妹尾堅一郎東大特任教授が本日の「知財マネジメントのイノベーション」の講演の残り部分を説明する。さらに、かねてから提案が出ていた、有馬朗人会長と知的財産委員会メンバーとの懇談についても、有馬会長が新たに静岡県立文化芸術大学理事長を引き受けられたこともあり、その後の日程を見ながら調整していくことになった。

 


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