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トレンドを読む(加納 信吾)

第三の水がもたらす漁業革命 (2014.9.30) 

 絶滅危惧種指定のニホンウナギだが、稚魚漁獲2割削減の国際合意が日中台韓で成立した。日本の消費量は平成25年で3.3万トン、国産1.4万トン、輸入の大部分は中国産で活魚・加工品合計で1.7万トンである。中国産は格安で人気だが、使用禁止のマラカイトグリーン(稚魚病死予防用だが発癌性が示唆)と避孕剤(ピル、成長促進剤)が大量使用されている。さらに肉厚にするための危険なエサ(水葬される屍体)が用いられているが、彼らにはウナギの食習慣はない。それでも現地では、6歳の子供にヒゲが生え、3歳の女児に初潮が起き、障害児が大量に生まれているという。通常、安価品のほとんどが中国産であり危険極まりないが、安さと安全性のトレードオフではすまされない。中国は稚魚確保の合法性が担保できないとして7月に来年2月以降の日本へのヨーロッパウナギの輸出禁止を発表したが、今回はウナギに限らず輸入水産物への依存を減らし食の安全性を確保する策について整理しておきたい。
 第一は、検疫プログラムにDWPE制度を導入することである。FDAは2006年10月から2007 年5 月の間のFDAの輸入監視プログラムで、中国産養殖シーフードに未承認の動物用医薬品や食品添加物が繰り返し検出されたため、これを製造した企業をDWPE(detention without physical examination、理学的検査なしの出荷差止)とし、この問題が一部企業の問題ではなく中国全体で起きていたとして、中国全体をDWPE とした。日本でも同様の措置が早急に求められる。
第二は、大量消費される魚種に対する天然資源に依存しない人工孵化・養殖サイクルを完成させることである。最近では近大と豊田通商がマグロの本格養殖に参入し、国内消費の1割を完全養殖でまかなう計画が発表されている。一方、平成22年には水産総合研究センターが、人工的に成熟させたウナギの親魚から採卵し、ふ化後の仔魚の餌料としてサメの卵を使用した餌を開発することでシラスウナギまで育て、そのシラスウナギを親に育て、再び採卵、ふ化させ、ライフサイクルを完結させることに成功している。日本人悲願のウナギ完全養殖まであと一歩である。
 第三は、魚類養殖施設の立地拡大である。岡山理科大生命動物教育センターが開発した「好適環境水」は、真水をベースに海水魚を育てられる「第三の水」である。魚の浸透圧調整に関わるNa、K、Caの3種の元素をわずかに加えるだけで実現可能で、現在陸上でトラフグ、ウナギの養殖に取組み、出荷が始まっている。陸上養殖(閉鎖循環式魚類養殖)と呼ばれるこの方法は、植物工場の漁業版である魚工場であり、乱獲による資源の枯渇、漁業規制、漁業就労者の高齢化により危機的な状況にある漁業にこれまでとは全く異なる立地条件、コスト競争力を提供する画期的な手段となりつつある。
 日本には食の安全を可能にするブレークスルーが次々に発生しており、これを活かせるかどうかはMOT側の問題となっている。

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