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トレンドを読む(加納 信吾)

フードロンダリングへの対処 (2014.6.15) 

 中国の水質汚染・土壌汚染は深刻さを増している。中国当局の標本調査による今年4月の公式発表でも16%が基準値超えとなっているが抜本的な対策はなく、一説には8割の土壌は危険な状態とされている。大気・土壌・水の汚染は連鎖しており、当然の結果として農産物は汚染され、無農薬栽培をしても土と水が汚染されていれば影響を免れない。食の安全性に厳しい日本の消費者が、輸入食品に対して敏感になるのは当然である。
 こうした消費者の防衛本能に真っ向から対抗しているのが原産地非表示のプライベートブランド(PB)食品である。例えばイオンが展開するPB「トップバリュ」は、原産国、生産者を表示しない商品が多く、同業のセブンイレブンがこれを店頭で名指しで非難する現象が起きている。中国韓国産の製品が多く、2010年時点で中国産調達率8割であったイオンはその後5割にまで下げたいと表明したが、最近では韓国産が増加している。原産国や生産者を表示しなかったり、わかりにくい表示で販売する行為は、マネーロンダリングならぬ「フードロンダリング」であり、詐欺的商行為として危険視されている。何故ならば、環境汚染や衛生習慣の現状を勘案すれば、原産国・製造業者が明示的に表示されれば日本の消費者は自らリスクをある程度判断する能力があり、表示に基づいて購買行動を変更するからである。
「商品に100%責任を持つ」といったセールストークの元でPB化とセットになったこの種のブラインド商法を許すと犯罪の温床となり、表示方法を改善しない限り消費者は構造的に危険に晒される。特にイオンの場合は、国産米と表示して中国産米を混入、韓国産チョコケーキ・アイスバーにアレルギー物質を混入させ30万個回収、あんぱんに国産小豆使用と表示して中国産を使用、塩ラーメンに発がん物質を混入、といった事件事故の多さから事情通の消費者からは「食品テロ」レベルと認識されており、PB食品関連犯罪に厳格に対処しない消費者庁の行政姿勢が懸念されている。
 消費者庁は、内閣府消費者委員会食品表示部会の「原料原産地表示拡大の今後の進め方に関する調査会報告書( 平成23年7月6日)」に基づき、加工食品の原料原産地表示の拡大を図っているが、制度論的なアプローチだけでなく、製造所のID設定、トレーサビリティの強化、検査情報の統合、消費者による情報活用を促進していくためには、生産・流通・消費にわたる情報インフラとは何か、そのための「技術的プラットフォーム」は何かというMOT的な視点を導入していく必要がある。「食の安全性を確保する」という課題は、どのように需要表現され、どのような技術開発課題に分解されて定義されるかという議論をMOTの課題として捉えることにより、食品の安全性の専門家とは異なる発想のソリューションが生まれてくる可能性がある。

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